モバイルノート市場(2004年12月、島田雄貴)

日本のモバイルノート市場や東京デジタル市場について解説します。(島田雄貴)

携帯電話で流行るのはゲームや着メロなどヒマ潰しばかり

モバイルノートの出荷台数は、2000年度にはノートパソコン全体の10数%だったが、2004年度には28%へと増加。割合だけでなく台数自体も増えている。が、「期待ほどではない。難しい市場だ」とパソコンメーカーやイー・アクセスの担当者は口をそろえる。 一方、モバイルの本命と期待されたPDAは失速、量販店の棚は電子辞書に奪われて久しい。

「モバイル環境からの接続は横ばい」とニフティ

通信インフラの利用状況はどうだろう。複数のモバイル接続手段を提供するニフティに訊ねると「モバイル環境からの接続は全体としては横ばい(ネットワーク部の広瀬健一氏)という。イー・アクセスなどの利用者が新しい通信手段に乗り換えている状況だ。

携帯電話の活用も怪しい

携帯電話の活用も怪しい。はやるのはゲームや着メロなどヒマ潰しばかり。街で使っている人の大半が仕事に使ってるとはとても思えない。

「だれもが気軽に実践できる時代、だが、それほど使われていない」。これがモバイルの現状らしい。

モバイルインフラの課題

「必要ない」というユーザーはさておき、「モバイルしたいができない、したくない」理由を探ってみると、3つの理由が浮かび上がってきた。1つが「日本の仕事のスタイル」、そして、会社に比べて「遅い」、そして1kgでもまだ「重い」というモバイルインフラの課題だ。

帰りの新幹線で報告書はNG

「出張の時、帰りの新幹線で報告書を書いてそのまま上司に送れば直帰できる。が、会社に戻って報告書を書いて、仕事していることをアピールすることが重要なんです」。

SOHO/モバイル研究家の入鹿山氏は半ばあきらめ顔でこう指摘する。昔ながらの会社ではモバイルを実践して、効率的に仕事を進めることに対する評価は低いというわけだ。

「フリーアドレス」を導入する企業

しかし、働き方にも変化の兆しはある。最近、社員の固定の席を設けず、好きなスペースでノートパソコンで業務をこなす「フリーアドレス」を導入する企業が増えている。いわば強制モバイルだ。

NECソフト

オフィススペースの削減を目的に2000年から導入したNECソフトの場合、「どこでも仕事ができる」利点が広く社員に認識されるようになってきたという。

インテルは社員にPHSカード配布

米インテルはノートパソコンと無線LANの活用で、どの程度効率化が進んだかを数値化している。職種によるが、おおむね1日10~27分の時間節約が実現できるという。日本法人も社員の98%がノートパソコンと無線LANを活用、必要に応じてPHSカードも配布している。

会議で資料の受け渡しが円滑に

「会議で資料の受け渡しが円滑になるなど、成果は上がっている」(エンタープライズ&ネットワーク ソリューションズ本部の矢嶋哲郎部長)。モバイル導入は会社の生産性向上に寄与するというのがインテルの見解だ。

団塊世代の引退による経営者層の若返り

調査会社ガートナー ジャパンの石渡昭好テレコム担当主席アナリストは「2008年前後、団塊世代の引退による経営者層の若返りがモバイル普及の転換点になる」と指摘する。世代交代でIT化の利点を肌で理解する若い世代がトップに立てば、仕事の進め方は自ずと変わるはずというわけだ。同氏は「モバイル化を進める大手企業と取り引きする中堅中小企業も、否応なくモバイル化を迫られるようになるはず」とも語る。

速くなるが軽くならない
アクセスポイント整備

「遅い」に関しても明るい兆しがある。2005年以降、携帯電話はメガ時代に突入、PHSも512kbpsへと高速化する。失速した観のあった公衆無線LANサービスも、事業者の地道なアクセスポイント整備の結果、息を吹き返しつつある。

燃料電池

「重い」ノートには、2005年以降も劇的な変化はなさそう。それでもメーカーはモバイルノート市場を見限ってはいない。1kg以下や燃料電池など新しいテーマに意欲的に挑戦している。また、サブ機ではなく、1台目として使える機能を持ったモバイルノートが増えていることも再認識したい。

携帯電話フルブラウザー

そして、モバイルを実践する上で欠かせなくなった携帯電話。パソコン用Webサイトを携帯電話で閲覧できるフルブラウザーの登場など、最新事情をまとめた。

2005年以降、モバイル環境はどう変わっていくのかを見ていこう。

遅くて高い時代は終わる
モバイル通信の現状と未来

ネットにつながってこそのパソコン。これはモバイルだって同じ。ネットが使えないならパソコンを持ち歩く意味なんかない。モバイル通信のインフラは、「速度が遅い」「料金が高い」「設定がめんどう」というのが現状だ。しかし、状況はどんどん変化している。出張先で快適な通信環境が手軽に手に入る時代はやってくるのだろうか。

イー・アクセスのADSLと同速度の無線LAN

定額で使えるPHS、メガ単位の速度が出る携帯電話、イー・アクセスなどのADSLとほぼ同じ速度がでる公衆無線LAN。モバイル通信の選択肢は確かに増えている。

50MbpsのADSLが月額4000円

とはいえ、ADSLの普及で劇的に高速化、低価格化した固定回線とは比ぶべくもない。50MbpsのADSLが月額4000円で使えるのに対し、月額5000~9000円のPHSの通信速度は最大で128kbps、100分の1以下だ。

万年ナローバンド

ADSLが普及する前、固定の通信環境とモバイルの通信環境に大きな差はなかったのだが、その差は開くばかりだ。モバイルは万年ナローバンドなのだろうか。

PHS、携帯電話、公衆無線LAN

モバイル通信の選択肢は増えたのだが、結果、実際に使おうとなると、どれを使えばいいのか、とてもわかりにくくなってしまっている。通信手段は大きく3つ。PHS、携帯電話、公衆無線LANだ。

料金が高すぎる携帯電話

どれもエリア、速度、料金の面で一長一短がある。大まかに言うと、(1)定額で気兼ねなく使えるが速度が遅いPHS、(2)速度は実用レベルだが料金が高すぎる携帯電話、(3)速度は速いがエリアが限られる無線LAN―といった具合だ。

PHS1番、携帯2番

携帯電話やPHSは、電話するために開発された技術だ。音声を遅延なく伝えることが重視される。技術革新のおかげで大量のデータも扱えるようになったが、無線LANほどの速度はすぐには望めない。

第3世代(3G)へ

携帯電話は、今、第2世代(2G)という、ここ10年ほど主流だった方式から、2001年以降実用化された第3世代(3G)という新しい方式への移行が本格化している。

au(KDDI)は3.5G

2Gではせいぜい28.8kbpsだった通信速度が、3Gでは10倍以上の384kbpsまで向上している。さらに、3Gを改良した3.5Gと呼ばれる技術も2003年秋から実用化が始まっており、3.5Gの実用化を1番乗りしたau(KDDI)では下り最大2.4Mbpsの高速通信サービス「CDMA 1X WIN」を提供している。

ネット接続(iモードやEZweb)は使い放題

3Gや3.5Gの実用化により、携帯電話単体でのネット接続(iモードやEZweb)については通信料金が定額で使い放題も実現している。ただし、パソコンとつないだ場合の定額利用は実現していない。

PHSはすでに定額制

PHSは、速度は64kbps~128kbps程度と低速だが、パソコンから接続しても月額数1000円の定額で使い放題になっている。速度なら3G/3.5G携帯だが、これらを日々のビジネスで使うと月の通信費は数万円は覚悟しなくてはならない。

DDIポケットのデータ通信サービス

料金、サービスエリアなどを考えると現状で最も実用的なのはPHSだ。PHS最大手のDDIポケットのデータ通信サービス利用者は10月末時点で177万人、うち定額制のデータ通信サービスである「AirH”」の利用者は111万人という。

今年は無線LAN元年

公衆無線LANサービスは、仕組み自体は個人宅で使っているものと同じだ。これを一般に有料/無料で解放している。通信速度はIEEE802.11bで11Mbps、実測でも数Mbpsは出る。

アクセスポイントのカバーエリアは数10メートル

そもそも広い範囲をカバーするための技術ではないので、1つのアクセスポイントがカバーできるエリアは半径数10メートル程度。出先のあらゆる場所で使えるようにするには、途方もない数のアクセスポイントが必要だ。

さまざまな機器に無線LAN子機

一方で、ノートパソコンをはじめ、さまざまな機器に無線LAN子機が搭載されており、利用者が通信機器を用意する必要がないという利点もある。

サービス開始当初、大きな期待が寄せられたが、今のところ存在感は薄い。アクセスポイントが少ないうえ利用できる範囲が狭いので、「自分の使いたいところにない」「どこで使えるか分からない」と利用者にそっぽを向かれているのが現状だ。

事業者側もこのあたりは心得ており、今年に入ってアクセスポイントの整備に本格的に取り組み始めている。日本通信の福田尚久取締役は「今年が公衆無線LANの元年」と位置付ける。

東京メトロなど地下鉄で

まず期待できそうなのが「駅」だ。首都圏では今秋から東京メトロのほぼ全駅に当たる165の地下鉄駅構内で公衆無線LANが順次使えるようになる。

NTT西日本管内のJR主要駅

ホーム、改札、コンコースに複数のアクセスポイントを設置、駅全体をカバーする予定だ。地下鉄の駅に飛び込めば無線LANが使えるとなれば、これはわかりやすい。このほか首都圏の私鉄主要駅、新幹線主要駅、NTT西日本管内のJR主要駅、主要空港へと公衆無線LANが使える場所はどんどん増殖中だ。

JR東日本はラッシュ時を懸念

ただし「駅ならどこでも」とは限らない。JR東日本は「駅への設置は安全との兼ね合いが重要。ラッシュ時のホームでパソコンを広げられても困る」との立場で、駅全体ではなく、構内の店舗や待合い室などに設置していく考えだ。適当な場所のない駅への設置は当分先になりそうだ。

飛行機で無線LAN

今年、公衆無線LANサービスにまつわる話題で一番衝撃的だったのが、空を飛ぶ旅客機内でのサービス開始だ。

全日本空輸も一部国際線でスタート

6月にルフトハンザドイツ航空が成田-ミュンヘン線でサービスを開始、全日本空輸も一部国際線でスタート、12月には日本航空も始める。なお、両社とも国内線に関しては飛行時間の短さを理由にサービスを始める予定はないとしている。

車両と地上を結ぶ回線の確保が困難

電車はどうだろう。出張族の利用が多い東海道新幹線は、残念ながら「検討しているが、近々の予定はない」(JR東海)という。これは高速移動する車両と地上を結ぶ回線の確保が難しいためだ。

ACトレイン

それでも実験は続けられている。JR東日本では車両内から無線LANでネットに接続できる次世代通勤電車「ACトレイン」を試作、実用化に向けた評価を続けている。ACトレインではFOMAとPDCの携帯電話を使って地上との間を結んでいる。

日本テレコムはJR北海道と共同で

一方、日本テレコムはJR北海道と共同で、車両と地上を無線LANでつなぐ実験に成功した。

千歳線の沿線10kmにアクセスポイントを設置

千歳線の沿線10kmにアクセスポイントを設置、車両とつないだもので、実測で10M~15Mbpsと十分な通信速度を確保できたという。近い将来は難しそうだが、新幹線や特急電車で無線LANが使える日がくるかもしれない。

NTTコムは2003年12月から東京・秋葉原で

屋外でも無線LANを使えるようにする動きもある。NTTコミュニケーションズ(NTTコム)は2003年12月から東京・秋葉原で、今年8月には丸ノ内で屋外無線LANサービスを始めている。

事業者のエリア拡大は来年に向けて加速する。NTTコムはアクセスポイントの数を11月時点の1200から来年3月までに3000に、NTT西日本も現在の2000から来年3月時点で3000に増やす。

FREESPOT

ホテルなどが集客のために提供する無料の公衆無線LANサービス「FREESPOT」も増えそう。11月現在のFREESPOTの数は約2200カ所、1000を超えるビジネスホテルで利用可能だ。

バッファロー

FREESPOT協議会の幹事を務めるバッファローによると「設置者側の満足度も高く、来年3月までに3000を目指したい」という。

マクドナルドはYahoo!BBモバイル

無線LANが使える場所は増えるが事業者ごとにサービスエリアに濃淡がある。ADSLなら、イーアクセスやNTT東日本は首都圏全般に強いが、無線LANの場合、日本テレコムはJRの駅に強く、NTTBPは私鉄沿線に強い。マクドナルドはYahoo!BBモバイルが、モスバーガーはNTTコムといった具合。1社と契約すればどこでも使えるというわけにはいかない。

ISPのIDで無線LAN

ところが、最近では個々の無線LAN事業者と契約しなくても、他社のアクセスポイントが使える手段が用意されている。自分が加入しているプロバイダーが無線LAN事業者と提携していれば、プロバイダーのIDを使って提携先の無線LAN事業者のアクセスポイントを利用できる。例えば、@niftyでは、NTTコムや日本テレコム(およびその提携先)のアクセスポイントが使える。

無線LAN事業者同士が提携して、利用者がより多くのアクセスポイントを使えるようにする動きも本格化している。また、1つのアクセスポイントを複数の事業者が共有する取り組みも始まっている。

例えば、前述した東京メトロのアクセスポイントは複数の事業者が共有する仕組みになっている。駅のようにどの事業者も設置したいけれど、設置場所が限られる場合に有用な方法だ。だれもがサービスを使いたい場所なら、どの事業者と契約してもよいという環境が整いつつある。

AirH"の通信速度512kbpsに

携帯電話、PHSも来年以降速度アップが進み、より使えるサービスへと進化する。2005年第14半期に、DDIポケットのAirH"の通信速度は、128kppsから256kbpsに上がる。

現在は32kbpsの無線のチャンネルを4つ使って128kbpsを実現しているが、今度は8チャンネルを同時に使えるようにする。

DDIポケットによると「基地局を密に配置しているので、ほとんどのエリアで256kbpsで利用可能」(喜久川政樹執行役員)だという。

>2005年度後半には、1チャンネルで送信できるデータ量を倍にする技術を導入、通信速度512kbpsを実現する予定だ。DDIポケットは「価格を上げずにより高速なサービスを提供する」方針で取り組むという。

NTTドコモ

携帯電話の世界にも次の高速化の波が来る。NTTドコモはイー・アクセスのADSLに対抗し、2006年以降、「HSDPA(High Speed Downlink Packet Access)」と呼ぶ次世代の技術を実用化する。

NTTドコモはイー・アクセスのADSLに対抗

下り最大は約14Mbpsとこれまでより格段に速くなる。屋外実験でも「2M~7Mbps程度の速度が出ている」(IP無線ネットワーク開発部の尾上誠蔵部長)という。ただし、実際のサービス開始時点では最大3.6Mbps、平均2M~3Mbpsになりそうだ。

下りは短い時間単位で各端末に電波を割り振る

HSDPAで大幅に高速化できた仕組みは、auが2.4Mbpsの高速サービスを実現したのとほぼ同じ。モバイル版のADSLといった仕組みを採用している。

下り方向は、電波の干渉を避けるため、短い時間単位で各端末に電波を割り振る。基地局に近い場所にいる端末には、1つの信号ブロックで送れる情報量を増やして高速化。このため、基地局から近く電波の状態がいい端末は高速なデータ通信が可能になるが、エリアの隅に端末がある場合には遅くなる。

速度は十分、あとは定額

最大速度が2.4Mbpsや3.6Mbpsで、平均で数百kbpsも出ていれば、速度面では実用レベルになったといっていいだろう。これで月額1万円以下で使える定額制が導入されれば、モバイル利用者には朗報だ。

NTTドコモは、HSDPAで定額制が実現されるかどうかは未定としている。ただし、答えはある程度見えている。パソコンからネット接続すると、携帯電話単体での利用に比べ、データ量が2ケタ以上増える。

それに対して、HSDPAで実現する電波の利用効率の向上率は3~4倍程度。残念ながら、定額制導入は難しそうだ。すでに3.5Gを実用化しているauでも、「パソコンからの膨大なデータを扱うには今のインフラではもたない」(au事業企画部の信田篤男課長)ため、今後の予定もない。

イー・アクセスは「高速・定額のモバイルサービスを安価に提供したい」

ただし、新規事業者の登場で、競争が激化して、通信料の低下や定額制の導入に結びつく可能性もある。携帯事業への参入を表明しているソフトバンクやイー・アクセスは、固定のブロードバンド化を実現してきた事業者だ。イー・アクセスは「高速・定額のモバイルサービスを安価に提供したい」と意欲を示す。

モバイル通信インフラは混沌

今後もモバイル通信インフラは混沌としており、今後1~2年程度では「これだけあればあとは不要」と言い切れる時代には来そうもない。

パソコン用のモバイル通信インフラとしてPHSの優位は当面変わりそうもない。すでに定額制を実現しており、今後の速度向上スケジュールも明確だ。2005年も出張族のパソコンに差さっているのはPHSカードということになりそうだ。

ノートでもブロードバンド無線を実現する「WiMAX」

携帯電話のように、ノートパソコンを外出先に持ち出して使う。街角のどこにいてもブロードバンドで接続できて、インターネットを見たり、メールを送受信できる。これを実現するのが次世代無線LAN「WiMAX(通称)」だ。

WiMAXには2種類ある。基地局から住宅までを結ぶ「IEEE802.16-2004」と、ノートパソコンのブロードバンド接続を目的とした「IEEE802.16e」だ。前者は今年6月に規格化が完了しており、後者は2005年中に規格化される見通しだ。

ノートパソコンの普及率が高い日本で期待されるのはもちろん後者。ただし、既存の無線LANとは異なり、パソコンショップでPCカードを購入すればすぐに使える、というものではない。

携帯電話と同様に、事業者が設備を整え、サービスを開始することが前提だ。国内でのサービス開始には電波の割り当てなど課題もあるが、期待される技術だけに早期対応を望みたい。

モバイルノート利用者は確実に増加

ノートパソコンの出荷実績(電子情報技術産業協会の発表)。モバイルノートの比率が徐々に増加している。モバイルノートは重さが2kg以下か、B5ファイルサイズ。2004年度は上期の実績から、通年の台数を編集部で予測した。

携帯電話は1人1台が当たり前

携帯電話は90年代後半以降爆発的に普及、2004年10月末時点では8467万人に達した。伸び率は鈍化しているが、依然として利用者数は伸びている。そのうち7270万人がiモードなどのネット接続サービスを利用している

ワイヤレス環境のブロードバンド化も進む

2005年以降、携帯電話、PHSの速度向上が進む。無線LANより広いエリアをカバーできるWiMAXと呼ぶ新たな技術も来年以降実用化が始まる。また、近距離通信向けの無線LANも高速化する

どこでも仕事をするワークスタイルが当たり前に

固定席を廃止し、毎日自由な場所で仕事ができる体制(フリーアドレス)を導入したNECソフトの流通・サービスソリューション事業部。SEの半数が固定席にいないことから、スペースの削減などを目的に導入した。2000年8月から導入。社員は朝出社した際、どの席に座るかをパソコンに登録する

数年前は固定もモバイルもあまり変わらなかったが・・・

固定回線がダイヤルアップ全盛だったころは、固定もモバイルも速度は同じレベルだった。しかし、固定回線が高速化していったのに対し、モバイルの速度向上の歩みは遅く、速度差は大きく開いてしまった

現在のモバイルの無線インフラはどれも一長一短

現在、モバイル環境で利用できる通信手段は、携帯電話、PHS、公衆無線LANサービスの3つ。携帯電話はPDC、cdmaOneなどの第2世代(2G)、FOMA、CDMA 1X、CDMA 1X WINなどの第3世代(3G)に分けられる。いずれも長所、短所があり、これ1つですべて利用できるという本命にはなっていない

携帯電話、PHS、無線LANの実効速度

BNRスピードテストで各通信インフラの速度を計測。PDCは9.6kpbsの回線交換、PHSは128kbpsのAirH"。無線LANはNTTコミュニケーションズのホットスポット(IEEE802.11b)

携帯電話はパソコンからの接続には高すぎる

1MBのデータを受け取るのにかかる通信費用を試算してみた(数値は目安)。無線LAN、PHSが圧倒的に安く、携帯電話は高い。PDCは回線交換とパケット通信で、FOMA/CDMA 1X WINはパケット通信で計算。PHSは32kbps定額利用者の月平均の利用量から計算

無線LANのスポットがあらゆる場所に広がる

利用者のニーズが高い駅へのアクセスポイント設置が進んでいる。東京メトロの溜池山王駅。NTTコミュニケーションズは屋外でも無線LANを使えるように東京・丸ノ内などでエリア展開を進めている。また、乗り物内の無線LAN環境の整備も進む。

無線LANスポットを利用する方法は3つ

無線LAN事業者に直接申し込む方法(A)の他に、提携した複数事業者のスポットを使えるようにするアグリゲーターに申し込む方法(B)、プロバイダーから提携事業者のスポットを使う方法(C)がある

無線LAN基地局の共用化、事業者間のローミングも進む

東京メトロ溜池山王駅に設置された無線LANアクセスポイント。複数の事業者で共用できる。事業者間のローミングも広まってきた。他事業者のエリアを使う場合は多くが有料

無料で使えるスポットも増加中

バッファローが推進する「FREESPOT」は11月現在、2200カ所で利用できる。来年3月末には3000カ所に増やす予定。ほとんどが無料

AirH"の256kbps試作機

DDIポケットは256kbpsの端末は試作しており、WPC EXPO 2004などで参考展示している

携帯電話、PHSもブロードバンド時代へ

NTTドコモは2006年以降、W-CDMAをベースにした新技術「HSDPA」を導入、大幅な高速化を図る。DDIポケットは、2005年以降、256kbps、512kbpsと順次高速化する

AirH"は来春256kbps、来年度後半には512kbpsに

128kbpsは32kbpsの通信が可能なチャンネルを4つ同時に利用している。来年以降、同時チャンネル数や、1チャンネル当たりの速度を上げて高速化する

HSDPAや1xEV-DOで高速通信を実現する仕組み

下りは時分割してその各スロットを1つの端末に全て割り当てる。基地局は他の端末との干渉を気にせず、常に最大出力で信号を送信

1xEV-DOとHSDPAでは利用する周波数幅が違う。これが速度の違いに大きく影響している。1xEV-DOがデータに特化しているのに対し、HSDPAが音声とデータを共用する点も異なる
※1xEV-DOは「CDMA 1X WIN」で利用している通信方式

HSDPAの実験も進む

NTTドコモのHSDPA実験システム。基地局に近いところで7~8Mbps、平均で2~4Mbpsの速度を確認できたという。中央部分が基地局

主な携帯電話/PHSサービスの速度や通信コスト
サービス名速度・料金エリアや用途
携帯電話
第2世代
(NTTドコモ、ボーダフォン、ツーカーのPDC)
9.6kbps。一部28.8kbpsのパケット通信が可能な機種もある *1国内の大部分で使えるが、通信料が高く、速度は遅い。使用頻度が低く、テキストのメールを読む程度なら使えるが、Webページを見るには厳しい
FOMA(NTTドコモ)、
VGS(ボーダフォン)
最大384kbp。1パケット0.2円、最も安いプランでは0.021円(ドコモ)エリアが広く、速度もメール、Webアクセスには十分。通信費用はPDCより安いが、パソコンからの接続は従量制のまま
CDMA 1X(au)最大144kbps。1パケット0.105円、割引プランを使うと最大8割引 *2国内の大部分で使え、PDCより若干安く、速度も速い。メールチェックなら十分使えるが、パソコンでWebアクセスするには高い
CDMA 1X WIN(au)最大2.4Mbps。1パケット0.1円、1番安いプランでは0.0126円 *22.4Mbpsで利用できる範囲は都市部中心だが、エリア外ではCDMA 1Xとして使える。従量制なので多用すると高くつく
PHS AirH"
(DDIポケット)
最大128kbps。月額6090円で32kbpsでつなぎ放題全国で利用可能。速度はやや遅いが、メールとWebアクセスで十分利用できる。128kbpsのオプションを付けると月額9765円
@FreeD
(NTTドコモ)
最大64kbps。月額5124円でつなぎ放題全国で利用可能な64kbps定額サービス(回線交換)。通信中に一定時間の送受信がない場合は自動的に回線が切断されるドーマント方式を採用
b-mobile ONE
(日本通信)
最大128kbps。無線LANも利用可能。1年間で9万4500円程度DDIポケットのネットワークを利用してPHSサービスを提供。無線LAN事業者と提携しており、全国3000カ所で無線LANも利用できる
eo64エア
(ケイ・オプティコム)
最大64kbps。月額3150円でつなぎ放題関西2府4県で利用可能。64kbpsの回線交換接続。従量制もあり月額基本料525円、1分5.25円になるが、通信料の上限は4200円

*1 9.6kbpsの回線交換接続は時間課金。パケット接続時は128バイトの1パケットが0.21~0.3675円(NTTドコモ)
*2 144kbpsは月額315円、2.4Mbpsには月額1575円の基本料がかかる

主な公衆無線LANサービスの料金、エリア
サービス名料金エリア、方式など無線LAN事業者
ホットスポット
(NTTコミュニケーションズ)
月額1680円。1日500円。従量制も用意する(月額基本料367.5円に1分8.4円)モスバーガーなど国内アクセスポイント数2200(12月末の予定)、今年度末は3000に拡張する予定。IEEE802.11aに対応 
Mzone
(NTTドコモ)
月額2100円。1日525円東京メトロ、ドコモショップなど国内エリア数332(11月末時点)。モバイルポイント(日本テレコム)、無線LAN倶楽部などのエリアも利用可能 
無線LAN倶楽部
(NTTBP)
月額1575円。1日315円(月額基本料が別途315円)首都圏の私鉄沿線、東京メトロを中心にアクセスポイント数は約700(12月末の予定)。モバイルポイント、Mzoneのエリアも利用可能 
Yahoo!BBモバイル
(ソフトバンクBB)
試験サービス中なので無料マクドナルド、ルノアールなど国内アクセスポイント655(11月10日時点)。11月18日以降、モバイルポイントから同エリアを利用可能に 
フレッツ・スポット
(NTT西日本)
月額945円、フレッツユーザーなら840円JR西日本の主要駅、空港など国内アクセスポイント数は約2000(10月15日時点)、今年度末には3000に広げる。IEEE802.11gに対応アグリゲーター
Wireless Gate
(トリプレットゲート)
基本料が月額210円、1回利用するごとに315~399円Yahoo!BBモバイル、無線LAN倶楽部、モバイルポイント、みあこネットのスポットを1回ごとに利用できる。携帯からスポットを探せるサービスも用意 
b-mobile ONE
(日本通信)
年間契約で9万4500円程度。端末込みで前払いする128kbpsのPHS定額通信のほかに、ホットスポット、モバイルポイント、無線LAN倶楽部などのアクセスポイントを利用できるプロバイダー
@niftyホットスポット(月額1470円、従量1分8.4円)
モバイルポイントは従量1分8.4円
ホットスポットとモバイルポイントのアクセスポイントを利用できる。モバイルポイント経由で無線LAN倶楽部のエリアも利用可能 
WiMAX規格の概要
用途使用周波数帯域最大転送速度通信可能距離規格策定の時期製品登場時期(推測)IEEE802.16-2004
基地局から住宅を結ぶネットワーク~66GHz75Mbps6km~9km(最大50km)2004年6月2005年中IEEE802.16e
ノートパソコンの屋外利用~6GHz15Mbps2km~3km2005年後半2006年から2007年 

ヨーロッパ企業の競争力強化(1990年)

海外における通信産業の企業動向について解説します。

市場統合で巻き返し

日米に遅れをとった先端技術分野
企業提携、M&A

ヨーロッパ企業は1970年代の石油危機、国際通貨不安という事業環境の変化に対し、設備投資による合理化という正攻法を避けた。その結果、ほとんどすべての産業分野、とりわけ先端技術分野において日米に遅れをとることになってしまった。これがEC諸国の首脳に市場統合を決断させた最大の背景である。市場統合は、このように競争力を喪失してしまったヨーロッパの産業界に強烈なインパクトを及ぼしつつある。ヨーロッパ企業は市場統合による競争激化を見越して、企業提携やM&Aを活発化させている。ヨーロッパ企業は、「日米に対する競争力を強化するためには、規模の利益の確保、技術開発力の強化、資本の蓄積が必要であり、共同しなければならない」と認識している。

トムソン(フランス)、テレフンケン、EMーファーガソン、RCA
ジーメンス(西ドイツ)とGEC(イギリス)

これまでに行われた代表的なM&Aとしては、トムソン(フランス)によるテレフンケン、EMーファーガソン、RCAの家電部門買収(家電の売上げはフィリップス、松下電器に次ぎ、世界第3位に)、ジーメンス(西ドイツ)とGEC(イギリス)との合弁会社の設立とその合弁会社によるプレッシー(イギリス第2位のエレクトロニクス企業)の買収などがある。

M&Aによるヨーロッパ企業の規模拡大
スクラップ・アンド・ビルド

このようにM&Aにより、ヨーロッパ企業の規模は確実に大きくなっている。今後、ヨーロッパ企業の競争力が強化されるかどうかは、生産の集約化による規模の経済の確保、老朽工場のスクラップ・アンド・ビルドおよび生産技術の向上にかかっている。ヨーロッパ企業の競争力の回復には雇用問題が密接に絡んでおり、一筋縄ではいかない。

インドシナ情勢に大転換の可能性(1991年)

海外における通信産業の企業動向について解説します。

ベトナムの経済恐慌が転換期を迎える

カンボジア問題の調停、中ソの緊張緩和
インドシナ諸国

戦乱と対外的な閉鎖性に象徴されてきたインドシナ諸国、なかでもその盟主たるベトナムを中心に新たな動きが見られる。ASEANによるカンボジア問題の調停、ソ連のゴルバチョフ書記長の訪中実現による中ソの緊張緩和、さらにベトナム軍のカンボジアからの撤退は、インドシナ情勢に大転換の可能性をもたらしている。30年に及ぶ解放闘争を経て、1976年に悲願の統一を達成したベトナムは、1970年代後半に凶作に見舞われ、復員兵力の失業問題を抱えたまま1970年代末から1980年代初頭にかけて経済恐慌に陥った。

1986年12月のベトナム共産党第6回大会
中国の援助停止

さらにソ連・東欧からの援助の減少、中国の援助停止、中越紛争、また自らの冒険主義にもとつくカンボジア侵攻、そしてそれに伴う西側の経済封鎖などにより、ベトナムは厳しい国際環境に身をおくこととなった。そのベトナムが方向転換を見せたのは、1986年12月のベトナム共産党第6回大会である。

革新的な政策
前ホーチミン市党委員会書記グェン・バン・リン

ここで「経済思考の刷新」がスローガンとして打ち出され、解放闘争を戦い抜いた革命老幹部に代わって、資本主義的なセンスを有する前ホーチミン市党委員会書記グェン・バン・リンを書記長とする新指導部が成立した。グェン・バン・リン政権は、(1)「経済主要三プログラム」(食糧・食品、消費財、輸出産業の優先的発展)、(2)「4つの縮小」(財政赤字、通貨膨張、物価高騰、生活難の縮小)、(3)非社会主義(附資本主義)的要素の導入など、「刷新」にふさわしい革新的な政策を相次いで打ち出した。

歴代の「テレコムシステム技術賞」の受賞者

「テレコムシステム技術賞」の歴代の入賞者のリスト(一覧)です。テレコムシステム技術賞とは、情報通信システムに関する優れた論文に与えられる賞です。入賞5件以内を選定し、1件につき賞金50万円が贈られます。毎年9月ごろまで応募を受け付けており、翌年の3月ごろに受賞者が発表されます。電気通信普及財団が主催しています。

2010年代

受賞年 入賞者 所属 論文の題名と受賞理由
2017 棚橋誠
(たなはし・まこと)
東芝研究開発センター ワイヤレスシステムラボラトリー 研究主務 「Uncertainty of Out-of-Band Distortion Measurement With a Spectrum Analyzer」
帯域外歪の測定値がスペクトルアナライザの設定に依存することを明らかにし、再現性のある測定をするための指針を与えている。測定のような自明と考える作業でも注意深く設計しないといけないことを気づかせてくれ、地味ではあるが通信規格づくりに役立った。
山口恵一
(やまぐち・けいいち)
東芝研究開発センター ワイヤレスシステムラボラトリー 研究主幹
鎌村星平
(かまむら・しょうへい)
NTTネットワークサービスシステム研究所研究主任 「Multi-staged Network Restoration from Massive Failures considering Transition Risks」
災害時における通信網の迅速な復旧と二次障害の抑制を線形計画法の枠内で定式化した。従来の論文と比べて、優位な技術を提案している。計算量削減のために提案したヒューリスティックな解法の有効性も示されており、実運用への期待も込めて賞を贈呈。
島崎大作
(しまざき・だいさく)
NTTネットワークサービスシステム研究所主任研究員
植松芳彦
(うえまつ・よしひこ)
NTTネットワークサービスシステム研究所主任研究員
源田浩一
(げんだ・こういち)
日本大学工学部情報工学科教授
笹山浩二
(ささやま・こうじ)
国立情報学研究所研究戦略室特任教授
髙井勇
(たかい・いさむ)
豊田中央研究所システム・エレクトロニクス1部研究員 「Optical Vehicle-to-Vehicle Communication System Using LED Transmitter and Camera Receiver」
移動する車同士の通信システムは、「つながる車」を実現するための重要技術である。本論文では、LEDおよびイメージセンサーを用いて、高速の光無線の通信を開発している。従来のイメージセンサーでは一画素あたり数100kb/s程度の受信能力であったが、ここでは新たな光通信イメージセンサーを開発して10Mb/s画素以上の伝送速度を実現。実際の車を使った伝送実験も行った。
原田知育
(はらだ・ともひさ)
豊田中央研究所の主任研究員(システム・エレクトロニクス2部)
安藤道則
(あんどう・みちのり)
豊田中央研究所の主任研究員(システム・エレクトロニクス1部)
安富啓太
(やすとみ・けいた)
静岡大学助教(電子工学研究所)
香川景一郎
(かがわ・けいいちろう)
静岡大学の准教授(電子工学研究所)
川人祥二
(かわひと・しょうじ)
静岡大学の教授(電子工学研究所)
2016 山口弘純
(やまぐち・ひろずみ)
大阪大学大学院情報科学研究科准教授 「Scalable and Robust Channel Allocation for Densely-Deployed Urban Wireless Stations」
WiFi基地局やITS路側機が密に配置されたエリアにおいて、電波干渉を測定せずに、高い資源利用効率を達成するVCC(Vector-based Cell Cover)アルゴリズムに基づく資源割当て技術を提案している。特徴として、基地局の増設、新規のトラフィック需要、通信エリアの変化などに対する柔軟性が挙げられる。大阪地区において路車間通信プロトコルのARIB標準に準拠した路側機を配置し、実証によって性能を確認した点も評価対象。
廣森聡仁
(ひろもり・あきひと)
大阪大学の講師(未来戦略機構)
東野輝夫
(ひがしの・てるお)
大阪大学大学院の教授(情報科学研究科)
梅原茂樹
(うめはら・しげき)
住友電気工業
浦山博史
(うらやま・ひろふみ)
住友電気工業の主席
山田雅也
(やまだ・まさや)
住友電気工業の部長補佐
前野誉
(まえの・たか)
スペースタイムエンジニアリングのソフトウェアエンジニア
金田茂
(かねだ・しげる)
米国法人スペースタイムエンジニアリングの技術部長
高井峰生
(たかい・みねお)
カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)の首席開発技術者
大阪大学大学院の招へい准教授(情報科学研究科)
岩井大輔
(いわい・だいすけ)
大阪大学准教授 「Extended Depth-of-Field Projector by Fast Focal Sweep Projection」
凸凹の面にプロジェクターで映像をうつす際に、1台だけではピントを合わせるのが難しかった。 本論文では、プロジェクターの合焦位置を高速で移動させることを提案。それによって、複数点にピントを合わせ、かつ見る人が感じるピンボケがどこから投射しても一定になることを示した。 さらに、高域強調フィルタでピンボケを除去できるとしている。
三原翔一郎
(みはら・しょういちろう)
KDDI主任
佐藤宏介
(さとう・こうすけ)
大阪大学教授
正岡顕一郎
(まさおか・けんいちろう)
NHKの放送技術研究所テレビ方式研究部主任研究員 「Design of Primaries for a Wide-Gamut Television Colorimetry」
現在の高精細テレビで用いている三原色では、実在する彩度の高い色を表現することはできなかった。 本論文はレーザー光源を想定し、新しいRGB三原色系を提案。 この表色系によってほぼ全ての実在する色を表現できることを示している。 この提案は超高精細テレビジョンの表色系として「ITU-R勧告BT.2020」のベースになった。
西田幸博
(にしだ・ゆきひろ)
NHKの放送技術研究所テレビ方式研究部上級研究員
菅原正幸
(すがわら・まさゆき)
NECの放送・メディア事業部主席技師長
中須英輔
(なかす・えいすけ)
NHKのエンジニアリングシステム先端開発研究部長
新熊亮一
(しんくま・りょういち)
京都大学大学院の情報学研究科准教授 「A Socialized System for Enabling the Extraction of Potential Values from Natural and Social Sensing」
SNSなどのデータ(ソーシャルデータ)を収集・分析するにあたって、データの構造的特徴をネットワークグラフで情報圧縮し、元データがなくても再現できる技術の提案。単なる技術提案の実証に留まらず、産業応用を目指したフォーラムを作り、実用化に向けた施策を進めている。理論と産業応用のバランスがとれている。
澤田泰治
(さわだ・やすはる)
Folio
大森裕介
(おおもり・ゆうすけ)
神戸デジタル・ラボの先端技術開発事業部
山口和泰
(やまぐち・かずひろ)
神戸デジタル・ラボの取締役先端技術開発事業部事業部長
笠井裕之
(かさい・ひろゆき)
電気通信大学大学院の准教授(情報システム学研究科)
高橋達郎
(たかはし・たつろう)
京都大学名誉教授
松田繁樹
(まつだ・しげき)
ATR-Trek 「多言語音声翻訳システム『VoiceTra』の構築と実際の運用による大規模な実証実験」
「VoiceTra」は世界初のスマホ向けのアプリで、音声翻訳システムとして期待されている。本論文はシステム開発論文として「VoiceTra」の構成を述べ、大規模な実証実験結果について利用形態の分析、音声認識性能、音声翻訳性能の評価結果を中心に論じた。今後の音声翻訳システム開発にとって有効性が高い。
林輝昭
(はやし・てるあき)
先進的音声翻訳研究開発推進センター
葦苅豊
(あしかり・ゆたか)
先進的音声翻訳研究開発推進センター
志賀芳則
(しが・よしのり)
ユニバーサルコミュニケーション研究所
柏岡秀紀
(かしおか・ひでき)
脳情報通信融合研究センター
安田圭志
(やすだ・けいじ)
KDDI研究所
大熊英男
(おおくま・ひでお)
フィート
内山将夫
(うちやま・まさお)
ユニバーサルコミュニケーション研究所
隅田英一郎
(すみだ・えいいちろう)
ユニバーサルコミュニケーション研究所
河井恒
(かわい・ひさし)
電気通信大学大学院の准教授(情報システム学研究科)
中村哲
(なかむら・さとし)
奈良先端科学技術大学院大学の教授(情報科学研究科)

世界のデジタル市場に対する日本と東京の責務(2000年)

成長戦略提示を IT、高齢化を推進力に

二十一世紀の世界経済に向け新たな成長戦略を提示することが日本の責務だ。沖縄サミットは絶好の決意表明の場である。

世界経済は、好調な米国を追うように欧州が景気低迷を脱し、日本を除くアジアも回復局面に入っている。国際金融市場は波乱なく小康を保っている。

アメリカは九〇年代初頭から、戦後最長のインフレなき成長を持続し、世界経済を引っ張ってきた。インフレ懸念から利上げが繰り返されたが、企業業績や株価は依然好調である。

欧州は通貨統合から一年半が過ぎ、ユーロ安による輸出の好調で、回復の波が域内中枢にも及び、利上げも行われた。

アジアは政治の混乱など不安定要素も残るが、九七年の通貨危機による混乱から、ようやく抜け出しつつある。

問題は日本だ。大企業の製造業を中心に設備投資の回復、収益改善基調から、明るさが広がってきたが、倒産、雇用不安などから、国民の多数が回復を実感するまでには至っていない。財政・金融の政策手段も限界にきており、着実に回復に向かうのか、力なく失速してしまうのか微妙な段階にある。

こうした中、アメリカが過熱気味の国内景気をいかに減速させ、巡航速度に収められるかに世界の関心が集まっている。景気の過熱で輸入を通じた対外債務も膨らみ、金利引き上げの影響も次第に出てくるだろう。今春からは株式市場が波乱含みになってきた。米景気がソフトランディングできず、仮にバブル破裂-ドル急落となれば、世界経済に与える影響は計り知れない。その緩衝役としても日本経済の回復が急がれる。

世界人口の56%を占めるアジアで七年ぶりに開くサミットだけに、地域の期待にこたえることも重要だ。赤字国アメリカに代わり、経常黒字の日本がアジアの輸出を吸収し、通貨混乱の受け皿になることだ。

そのための推進力となるのがIT(情報技術)だ。ITは今回のサミットの大きなテーマだが、日本政府も内需創出の切り札にしようとしている。しかし政府は過剰に介入するのではなく、民間の新事業、ベンチャーの動きを支援することが肝心だ。

IT革命では米国に出遅れたが、日本には爆発的な普及をみた携帯電話をはじめ、テレビゲーム、デジタル家電、産業ロボットなどエレクトロニクスを中心に世界的に誇るべき技術、商品群がある。ちょっと古いがカラオケやアニメなどの軟らか文化もある。

国内の少子高齢化の進展も、熟年世代が元気に暮らせる社会基盤が整備され、新しい商品・サービスの需要が増大するきっかけとなるとの見方も可能だ。

規制緩和、行政効率化、円高をテコに、国民の実質購買力を増大し、内需と輸入の拡大を図ることが日本の使命だ。九〇年代の日本の経済政策は、デフレを警戒する余り、国内事情が最優先だったが、この際、国際的な責務も改めて内外に語る時であるだろう。